STAFFスタッフ
監督高賛侑(コウ・チャニュウ)
朝鮮大学校卒。文芸活動に従事しつつ、詩・小説の創作、演劇の脚本・演出多数。
朝鮮関係月刊誌『ミレ(未来)』編集長を経てノンフィクション作家。
2015年、ライフ映像ワーク設立、代表。自由ジャーナリストクラブ理事。
ルポ「旧ソ連に生きる朝鮮民族」で部落解放文学賞(記録文学部門)受賞。
2019年、ドキュメンタリー映画「アイたちの学校」監督(キネマ旬報文化映画ベスト・テン。日本映画復興奨励賞受賞)。
著書に『アメリカ・コリアタウン』(社会評論社)、『国際化時代の民族教育』(東方出版)、『異郷暮らし』(毎日新聞社)、『ルポ 在日外国人』(集英社新書)等。
共著に『在日一世の記憶』(集英社新書。事務局長)、『ひとびとの精神史』(岩波書店)等。
ライフ映像ワーク/http://life-eizo.com/
ブログ/http://blog.livedoor.jp/ko_chanyu/
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かつて在日韓国・朝鮮人問題をライフワークとし、ノンフィクション作家として数々の著書を著してきた高賛侑監督は、2019年に初のドキュメンタリー映画「アイたちの学校」を制作し、いま新たに在日外国人問題をテーマとする「ワタシタチハニンゲンダ!」を世に送り出した。活字の世界から映像の世界へ。映画に託す思いを聴く。
■在日外国人差別問題の映画を制作したモチーフは何ですか?
私は在日朝鮮人二世として生まれましたが、昔は社会に朝鮮人差別が蔓延していたため、子ども心に深い傷を負ったつらい日々を送ったものでした。
高校3年の時に朝鮮大学の存在を知って進学し、民族的アイデンティティに目覚めてからは、在日朝鮮人差別をなくす活動をライフワークにしようと決意しました。
1988年に朝鮮関係の月刊誌を創刊し、取材活動をする過程で、「どう考えても朝鮮人差別はひどすぎる。他の国に住むコリアンの実態と比較してみたい」と思い立ち、中国・朝鮮族、在米コリアン、旧ソ連・高麗人の取材を試みました。その過程で「発見」したのは、どの国でも異民族に対する偏見などはありうるが、日本は国家が自ら差別的な法律や制度を作っているという点で世界の人権基準からほど遠い「異常な差別だ」ということでした。
さらに日本に住む外国人たちを取材していくと、他の外国人もみな朝鮮人と同様の差別に苦しんでいる様を目の当たりにしました。こうした体験から、朝鮮人だけでなく、全ての在日外国人の差別をなくさなければならないという視点を持ち、出版活動にも力を注ぐようになりました。
私は差別の中でも最も重要なのは民族教育差別だと考えます。なぜなら子どもの民族的アイデンティティを育む教育を否定するのは、民族抹殺政策につながるからです。
2010年に日本政府は高校無償化制度を開始したとき、朝鮮学校を対象外にしました。「子どもの教育に政治を持ち込むな」という世論が沸き上がり、朝鮮学校は裁判闘争に立ち上がったにも関わらず、司法までが差別政策を追認したとき、私は活字による活動に限界を感じ、ドキュメンタリー映画の制作を決意するに至ったのです。
■制作過程で特に印象に残ったことはありますか。
「アイたちの学校」は想像もしなかったような大きな反響を呼び起こし、日本全国だけでなく、米国、ドイツ、オーストリアなどでも上映されました。実はその他の国々でも自主上映の可能性が広がっていたのですが、コロナ禍のために中断せざるを得なかったのは残念なことでした。
しかし映画の持つ力を確信した私の胸に、一昨年秋頃からふつふつと込み上げてきたのが、在日外国人全体の差別というテーマでした。
とはいえ容易に決断することができませんでした。主な理由の一つは、外国人問題に対する社会的関心があまりにも低いことです。制作しても動員につながらないだろうと。
もう一つは、映像の限界性です。映画には映像が必要ですが、技能実習生や難民が暴行や虐待を受けている状況を撮影するのは不可能です。さらに安易に被害者を撮影すれば、どのような問題が派生するか分かりません。実際、初めに技能実習生の取材をしようとしたのですが、支援運動の方たちからことごとく断られました。たとえボカシを入れるとしても、本人にどのような被害をもたらすかしれないためです。
ずいぶん迷いながら、昨年2月、長年難民支援活動をしてきた団体にだめもとで仮放免者の取材ができないかと相談したところ、7人の方が応じてくださいました。そしてインタビューを行ったとき、激しい驚きと戦慄をおぼえました。およそ「差別」という概念をはるかに超えた、命に関わる体験談に初めて接したからです。私は取材中、何度も涙を流しながら、「この話を聞いた以上、逃げることはできない。動員などの問題がどうなろうと、真実の記録を残さなければならない」と覚悟を決めるに至りました。
それから間もない3月、入管制度を根底から揺るがすウィシュマさん死亡事件が発生しました。政府や入管に対する嵐のような批判が沸騰する中で、1日も早く作品を完成しなければという一念で作業を進め、ようやく今年4月に完成、5月から上映にこぎつけることができたのでした。
■今後の上映活動はどのように進めていくのですか。
映画は幸い、大きな反響を呼び、劇場上映、自主上映の輪が急速に拡大しつつあります。ご覧になった方は皆さん、「こんな事実を初めて知って衝撃を受けた」と語り、各種メディアによる取材も相次いでいます。
私は「アイたちの学校」にせよ、「ワタシタチハニンゲンダ!」にせよ、不条理な外国人差別制度の根絶を求める世論を喚起するために寄与したいという思いで制作しました。そのためあらゆる可能性を模索しながら上映活動を進めたいと思っています。日本国内はもちろん、国際的な世論を高めるために英語版(日本語版に英語字幕付き)と韓国語版(ナレーション、字幕等全て韓国語)による海外上映も拡大したいです。
私は「上映協力をお願いします」という言い方を避けたいと思っています。ご覧になって「私も何かしたい」と感じた方に、「何らかの形で差別撤廃運動に参加してください」と呼びかけたいからです。すでに数十の個人、団体の方々から自主上映の提案をいただいているのは本当に喜ばしいことです。
撮影小山 帥人(こやま・おさひと)
1964年から2002年までNHK大阪報道部でドキュメンタリーの取材・撮影を行なう。主な取材作品に、『現代の映像・空からの衝撃』(1968年)、『NHKスペシャル・コリアタウンの二世たち』(1990年)など。その後、映像ドキュメンタリー『もうひとつの世界は可能だ』、『もうひとつのアフリカ』を制作。ドキュメンタリー映画『アイたちの学校』の撮影を担当。著書に『市民がメディアになるとき』、『我が家に来た脱走兵』など。現在、社団法人自由ジャーナリストクラブ代表理事、および一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター理事。
撮影松林 展也(まつばやし・のぶや)
16ミリ専門のミニシアター経営、テレビ番組の構成やディレクターを経て、現在NPO法人映像記録理事長。高賛侑監督の前作「アイたちの学校」では大阪地裁の勝訴判決の撮影などに携わる。高監督には使命感がある。この作品をより多くの人に見てもらうことを、切に願っています。テレビ番組「世界ふしぎ発見!」、「BS生放送-悠久の山峡-」、大阪市人権アニメーション「あしたきらりん」、大阪府人権啓発映像「土地差別問題を考える」など多数。現在、NPO法人映像記録自主制作作品として「戦影-売国奴と呼ばれた男たちの遺言状-」(プロデュース)が待機中。
撮影協力・編集黒瀬 政男(くろせ・まさお)
映像クリエーター(企画、脚本、撮影、編集、プロデュース、スタッフコーディネート等)。古いフィルムの保存・修復などアーカイブ活動。
インディーズ系映像制作の支援活動。広島県出身、大阪市在住。大阪芸術大学映像学科卒業。映画、テレビ番組、VP、CM、ドキュメンタリー制作に携わる。1996年より関西大学社会学部において非常勤講師として映像制作実習を担当。2000年より黒瀬映像演出事務所(大阪市中央区)主宰。YouTubeチャンネル「アナログな映像」。関西大学社会学部非常勤講師。著書『映像クリエーター入門』(2009年)。テーマ音楽Akasha(アカシャ)
京都府京田辺市にてAkasha主宰。音と声の探究者。通訳者・翻訳者・編集者・ホメオパス・呼吸法指導者。ドイツで生まれた、音の振動をからだに伝えることを主目的とする、ソウルサウンドライアーという楽器に出会い、2009年から日本に紹介している。音と声を通じての響き愛により、自他の隔たりのない、何も間違いのない世界を体験し、音の力の神髄を体感する「宇宙の音・地球の声」ワークショップを全国各地で開催。ソウルサウンドライアーを自ら生みだす「ライアー制作ワークショップ」を各地で主催。著書に『魂の音が聴こえる~ソウルサウンドライアーのひびき~』、訳書に『スピリチュアル・マテリアメディカ』等がある。
ホームページ/https://akashasong.com音響効果吉田 一郎(よしだ・いちろう/ガリレオクラブ)
映像の世界で音を担当して、いつの間にか半世紀。1991年に独立して録音(MA)スタジオ(有)ガリレオクラブ創設。設立時のパンフレットに、我々の仕事は「仏像に魂を入れるような仕事」だと書きました。映像制作の最終段階での音入れ作業、その良し悪しが、作品の出来を左右してしまいます。以来、TV-CM、TV番組、企業PRビデオ、ドキュメンタリー映画等の選曲、音効、MAに従事しています。長く仕事を続けていると共感できる、いい作品と出会えるものです。高賛侑監督とは前作「アイたちの学校」に続いて今回も「ワタシタチハニンゲンダ!」のお手伝いをさせていただきとても感謝しています。
整音朴 京一(パク・キョンイル/ガリレオクラブ)
2013年、京都朝鮮中高級学校卒業。HAL大阪専門学校ミュージック学科サウンドエンジニア専攻卒業し、2017年より有限会社ガリレオクラブに入社。現在、テレビ番組やCM、VPなどのインタビューや同録の整音、音響効果、ミキサーを担当。「アイたちの学校」では、アシスタントとしてナレーション収録からミックス作業まで携わる。私も学生の頃、高校無償化の署名活動を行ったことがあるのですが、いまもこういった一部の国に対する差別があるのがとても辛く感じます。この映画を通して、少しでも良い方向に世の中が変わることを切に願いつつ、整音を担当させていただきます。
宣伝美術高 元秀(コ・ウォンス)
朝鮮大学校師範教育学部美術科を卒業後、奈良朝鮮初中級学校にて教鞭をとる。その後、ウリハッキョを中心に美術講師をしながら自らの創作活動を展開。
同時に在日本朝鮮文学芸術家同盟大阪美術部長、日朝美術家懇談会(大阪)事務局長、アルン展事務局長などを歴任し企画に携わる。2018年には済州四・三犠牲者慰霊碑(大阪市天王寺区)のデザイン・設計を担当した。近年はフリーのグラフィックデザイナーとして活動。また2019年よりハンマウム出版を友人と立ち上げ、在日コリアン関係の書籍を次々に出版している。一般財団法人大阪コリアタウン歴史資料館理事。ナレーション水野 晶子(みずの・あきこ)
毎日放送アナウンサーとして主に報道番組を担当。2019年からフリーアナウンサー・朗読家として活動。インタビュー取材で綴る「ドキュメンタリー朗読」や古典落語を女性の視点でとらえ直す「落語朗読」に挑戦しながらライブ活動を展開。「愉かい亭びわこ」として高座も務める。毎日文化センター等で朗読講座を開き、YouTube「朗読人」を毎週配信。社会福祉士。企画・取材・構成・語りを担当したラジオドキュメンタリーでギャラクシー賞奨励賞。個人としてギャラクシー賞DJパーソナリティ賞、放送ウーマン賞、JNNアノンシスト賞語りナレーション部門最優秀賞等。